数年ぶりに足を踏み入れた野比家は、昔とは違う、どこか余所余所しい匂いがした。

のびママ「いらっしゃい、しずかちゃん…」

頭に白いものが目立つようになった彼の母が、力のない声で私を和室へと案内してくれた。
こうして彼の母と向き合って座ると、私の胸は懐かしさでぎゅっと締め付けられるようだった。
あの頃の、楽しかった思い出が頭を駆け巡る。
テレビを見ながら眠ってしまった彼を尻目に、二人でガールズトークに花を咲かせたのもこの和室だ。
そんな時、彼の母は決まって「息子には内緒ね」と舌を見せながら、隠しておいた高級菓子を私に出してくれたものである。
彼の母には、一時期とてもよくしてもらっていた。

 

2: :2013/08/30(金) 08:49:22.58 ID:

のびママ「今日は悪いわね、しずかちゃん。お仕事、忙しいのでしょう?私達のことなんてもう忘れてくれていいのよ」

一方的にやって来たのは私のほうなのに、彼の母はひどく卑屈な言い方をした。
以前なら、こんな言い方しなかった。
数年で、人はここまで変われるものだろうか。
だが野比家の状況を考えると、わからないでもない。
彼の母は、この数年の間にあらゆる限りの暴言、罵詈雑言を浴びせられ、世間から好奇と悪意の眼差しを受けたのだ。
それはきっと、私には想像もつかないほどの長い長い地獄の日々。
それでもこうして生活を保っているのだから、やはり女性はタフだというのは本当だろう。
一方彼の父は早い段階から精神を病み、自己の暗い世界へと逃避してしまったと聞く。

しずか「おばさん、そんなこと言わないでください。結局私はおばさんの娘にはなれなかったけど、今でもおばさん達のことは大切に思っているんですよ。どうか他人行儀の言い方はよして」

のびママ「…ありがとう。でもいつまでもあなたのような若くて綺麗なお嬢さんを、うちに縛りつけておくことはできないわ」

彼の母が気休めの言葉など求めていないことは、その様子から見てとれた。
辛い。
だけど人間は生きてる限り、前に進まなければならない。
私は決心して、本題に入った。

しずか「あの、今日はお願いがあって来たんです」

のびママ「お願い?」

しずか「はい、のび太さんの部屋を見せてもらえませんか?」